コラム⑤ 自己流のススメ

効率良く記録を伸ばしていく上で「自分に合う練習をやり込む」という方法があります。スポーツは種目限らず、基本的な運動能力とその種目に特化した専門技術の両方があってパフォーマンスとなります。このどちらも練習のバリエーションが無数にあるので、感覚的にわかりやすいもの、わかりにくいものがあると思います。「この動きの練習をしています」と言われてピンとくるものと、こないもの。人それぞれ自分にとって分かりやすかったり、わかりにくい練習があるはずです。

ここで大事なのは自分にとってわかりやすいもの、成果が出やすいものをできるだけ早く見つけ、それを徹底的にやり込むことです。何故か、答えは簡単です。中学、高校、大学は3年、4年と期間が限られているからです。恐らく多くの人が3年生時、4年生時に一番良い結果を出したいと考えています。この短い期間で結果を出すためには、いかに効率良く練習できるかが鍵になります。あまり効果を感じない練習や苦手なことをひたすらやるよりも、自分に合う練習や得意なことをより伸ばす練習をした方が時間的にも効率が良いのです。

具体的な例として、反発の貰い方を覚えるのに、バウンディングがいいのか、ハードルジャンプがいいのか、ドロップジャンプがいいのか、走る練習がいいのか、いくつかの選択肢があります。どれも大事な練習ですが、自分が一番わかりやすい練習を重点的にしましょう。

下半身が弱いので補強をするとして、スクワットがいいのか、片脚スクワットがいいのか、ランジがいいのか、ブルガリアンスクワットがいいのか、走り込みがいいのか、自分の意図したポイントに対して一番効果を感じる補強をメインにしっかりやりましょう。

ただ、勘違いしてほしくないのは、苦手なことや意味のわかりにくい練習ももちろんやる必要があります。できないことができるようになって新たな感覚が芽生えたり、今までの練習がより効果的になったりすることがあるからです。要は割合の問題ですね。7:3か6:4くらいの割合で練習を考えるべきでしょう(反発を貰う練習でバウンディングが7なら他のハードルジャンプ等が3になります)。もちろん同じことを繰り返しても意味がないので、徹底的にやり込めばまた新しいことをやり込むということを繰り返す必要があります。これは全ての練習に対して言えることです。人によってはそのスパンが半年なのか、1年なのか、3年なのかわかりませんが、少なくとも中学3年間、高校3年間、大学4年間でやるべきこと、内容は変わっていかなければ成長は無いと思います。経験上やり込むスパンが短く済む(徹底的にやり込める)人ほど成長率は高いと感じます。

限られた期間の中で効率良く練習することが大事であると言いましたが、陸上競技の場合はピークが20代後半から30代にかけてと言われています。つまり、大学生でもピークを迎えていない人がほとんどです。学生にとって中・高・大で結果を求めるのは当然だろうとは思いますが、本音としては長いスパンで競技生活をみてほしいなあと思います。実際、効率良く練習に取り組んでも15年程度の歳月は十分短く感じるので中学生の時から意識しておいて損はないと思います。

コラム④ 自分を知る

お久しぶりです。

年末年始は子供から大人までいわゆる「休み」の状態が多くなります。きっと厳しい学校の部活も何日間かは休みになるはずです。また、年末年始で1年を振り返り、新年を新たな気持ちで迎える人も多いと思います。そういう意味ではアスリートにとっても年末年始の休みはとても大事なんだろうと思います。特にこの時期は冬季練習に入って約2ヶ月で冬季の3分の1以上が経過した状態にあると思うので、この約2ヶ月間を振り返るいい時期です。自分のプラン通りに進んでいるのか、今後の方針を修正する必要があるのかどうか、考えるといいと思います。全く何も考えずに練習している人、今からでも考えていきましょう。

ちなみに私は怪我で早々にシーズンを終えてしまったので例年より早く翌シーズンに向けた練習を開始していますが、プラン通りにやれているかというと半々といったところです。練習自体はイメージ通りにできていますが、それ以上に新しいイメージややりたいことがどんどん出てきて当初立てていたプランを変更していく必要を感じているからです。陸上競技を始めて16年程経ちますが、それでも毎年なかなかうまくはいきません。ただ、やりたいことが出てくると陸上がより一層面白くなってくるのは事実です。そこを子供達に伝えていけたらなあとは常々思っています。

少し話が脱線しましたが、自分自身が毎年難しいなと思いながら冬季を過ごしているということは、中高生にとってはもっと難しいことなんだろうなと思うのです。そういう意味でも是非この機会に自分のことをよく考えてほしいわけです。得意不得意は別にして、自分自身を客観的に見るという訓練はしていかなければいけません。指導や選手をしながら常に感じるのは考えて行動・練習ができない人は「弱い」ということです。この「弱い」というのは色んな意味でです。考えずに練習しても強い人はいますが、勝負どころで弱かったり、安定感がなかったり。何よりも考えている人は自分の弱さをよく知っていますから、そこを補う努力をするはずです。練習も、指導者側がどれだけ効果的なメニューを考えついたところで、結局のところ選手が考えて練習できるかどうかにかかっています。考えるように仕向けたり、考えないとできない練習を組むことはできますが、結局は本人が考えるということをしなければいけません。ここは誰も手出しができず、自分自身でやるしかありません。

最近イチローさんがこんなことを言っていました。

「今は厳しく教育することが難しくなり、先生たちより生徒の方が力関係が強くなってしまっている。厳しく教えることが難しい時代に、誰が教育をするのかというと、最終的には自分で自分のことを教育しなければいけない。そういう時代なのかと思う。」

まさにそうだなと思いました。我々も教える立場ですが、自分自身もその立場にいるんだという認識は持っていてほしいです。今の時代は、より一層自分自身と向き合うことが求められていると感じます。今、世界で活躍する日本人アスリートがたくさんいます。昔とは比べ物になりません。それも10代、20代にたくさんいます。印象的なのは、インタビューやコメントをみていると、とてもしっかりとした考え方や発言ができていて、言葉だけでは10代、20代には思えないくらいです。本当にみんな自分自身をよく理解しているなと感じますし、自律(自らを律する)しているなと思います。きっとそういう時代になったのでしょう。

トップアスリートを目指せとは言いませんが、せっかくしんどい練習をして翌年に記録を出そうと思うのなら、是非この休みの間にこれまでの自分自身を振り返り、新たな気持ちで練習に取り組む準備をしてほしいと思います。



コラム③ 努力とは何か

1月も中旬を過ぎ、冬季トレーニングもちょうど中盤に差し掛かったところでしょうか。充実した日々を送れている人、そうでない人、色んな人たちがいることでしょう。おそらく充実した日々を送れている人たちは、シーズンを振り返り、自分の課題や目標を明らかにした上で冬季トレーニングに入ることができた人でしょう。そして、明らかな変化を感じるからこそ充実感を得られているのだと思います。冬季トレーニングも中盤に差し掛かった今、考えるべきことは、冬季トレーニングに入る前に立てた目標や課題をどの程度クリアできているか、イメージ通り、計画通りに日々を過ごせているかということです。この中盤に振り返ることで、冬季トレーニング後半の計画修正や変更が可能となるだけでなく、今一度気合を入れて練習に励むことができます。これからの過ごし方がシーズンに大きな影響を与えることは間違いありません。出遅れている人たちも焦らずに取り返すチャンスがあるのです。

今の時期は学校の部活動で練習を行っている人たちにとって厳しい季節だと思います。なぜなら下校時刻が早く、思うように練習できないことが多いからです。その中で大事なことはどこを意識してやるか、何を考えてやるかということだと思います。また、練習に対してどこまで意味を持たせることができるかということも大事です。自分自身がどう考えるか、何を意識するかによって練習の意味や中身は変わります。一見意味のなさそうな練習に意味を持たせる。これも一つの努力でしょう。努力という言葉は非常に広義な言葉で、何にでも当てはまるものです。もちろん練習は努力でしょうし、もっと強くなるために色々調べまわることや自己分析も努力だと思います。人に聞くことも努力、生活習慣を変えることも努力、学校で勉強したことをスポーツに生かそうとすることも努力でしょう。昔と違って今はインターネットが普及していますし、やる気さえあれば自らの手で様々な情報を手に入れることができます。練習は「誰もがする努力」ですが、情報収集も「誰もがする努力」になってきたと言えるでしょう。むしろ情報に溢れすぎていて本当に必要な情報が何なのかわからなくなるリスクが大きくなったような気がします。情報を整理、選別する努力もまた、求められているのです。

本当に、努力という言葉は何にでも当てはまると思います。アスリートにとって大事なことは「努力=練習」ではなく、練習は努力の一つということです。そこを理解しておかないと、いずれ記録が伸び悩み、苦しい状況に陥ってしまうのです。

コラム② ピッチとストライド

陸上競技の世界に足を踏み入れれば、必ず耳にする言葉があります。

それは「ピッチ」と「ストライド」です。

ピッチとは1秒間に何歩進んだかを表し、ストライドは1歩で進んだ距離を表します。この世のスプリンターや速く走りたいと思っている人たちにとって、ピッチを上げてストライドを伸ばすというのは永遠のテーマと言えるでしょう。なぜなら、走速度はピッチ×ストライドで表されるからです。したがって、多くの選手がピッチを上げる練習とストライドを伸ばす練習に取り組む訳ですが、トレーニングによってストライドは伸ばせても、ピッチを上げるのは難しいとされています。実際に、トレーニングでピッチはさほど変化がなかったものの、ストライドが伸びたことで走速度が向上したという報告があります。

ストライドは全力疾走の80%程度の速度でほぼ最大になり、それ以上の速度で走ってもあまり変わりません。一方、ピッチは走速度の増大と共に高まっていきます。やはり、長期的な視点から考えれば、ストライドが増大するようにトレーニングを重ねていくことが速く走る上で重要と言えるでしょう。

しかし、だからといってピッチの練習を疎かにしてはいけません。ピッチをトレーニングで上げていくのが難しいとしても、ピッチの上げ方は幾らでも改善することができます。ただただ力ずくでピッチを上げる走りをするのと、身体、重力を上手く使ってピッチを上げていくのとでは明らかに効率が違います。効率の良いピッチの上げ方ができれば、消費するエネルギーを抑えることができるので、後半にバテない走りや本数をこなす(予選、準決勝、決勝など)ことができます。100mと200mのタイム差が大きすぎる人などは走り方を考えてみた方がいいかもしれませんね。

参考・引用文献

ヒトの動き百話〜スポーツの視点からリハビリテーションの視点まで〜 小田伸午・市橋則明編(p90-91)

コラム① オフシーズンの過ごし方

11月も終わりが近づき、本格的に寒い季節となってきました。これから4月頃まで試合が無く、いわゆるオフシーズンと呼ばれる時期に入っています。オフシーズン=鍛錬期というイメージを持つ人は多く、練習内容は走り込み、筋トレが中心になりやすいです。「冬季練習」とよく言われるこの季節ですが、ただしんどい練習をたくさんしたところでそこまでの飛躍は期待できないでしょう。私自身、これまで10年以上陸上競技に取り組んできましたが、冬場の走り込みや筋トレ、補強等の練習量を増やした結果、翌シーズンで飛躍的に記録が伸びたという経験がありません。苦しい冬季練習を乗り越えた先で得たものと言えば、最低限出せる記録の水準が上がったことと、やっと練習が楽になるという喜びくらいでしょうか(笑)。もちろん、オフシーズンにハードな練習を行うことに対して否定をするつもりはありませんが、その考えでいくならば、「ハードな練習=オフシーズン」である必要はなく「ハードな練習=オールシーズン」でもいいと思います。練習量に対してしっかりと休養が取れればいいわけですから、試合が頻繁に行われるシーズン中でも練習量を落とす必要は特にありません。

少し話を戻したいと思います。私自身がオフシーズンを経て飛躍的に記録が向上したシーズンというのは、オフシーズンで技術的な課題の改善や新しい感覚を身につけた時です。つまり、「オフシーズンは試合がないのでがんがん練習できる」という考え方よりも、「オフシーズンは試合がないので記録を気にせずじっくりと技術改革に取り組める」という考え方を持った方が、充実したオフシーズンを過ごせるというわけです。ざっくりと言えば、自分の課題(新しく手に入れるべき技術や感覚、そのために必要な基礎体力等)に集中して取り組める時期ということです。

オフシーズンで自分の課題に取り組むには、当然ながら自分の課題を明確にしておく必要があります。そのために、シーズンの振り返りと来季の目標設定を行うのです。既に一部の選手には渡していますが、今シーズンを振り返って「どこが成長したのか」「何をもっとやらなければいけないのか」という点を明らかにした上で、来シーズンの目標から逆算した結果、オフシーズンに重点的に取り組むべき課題をはじき出すのです。そしてより詳しく、「〇月までにこれができるようになる」「〇〇までにこれを身につける」というようにオフシーズンの中でも細かく目標を立てることで、明確な目的、目標を持ってオフシーズンのトレーニングに取り組むことができます。その結果、シーズンに入ってから飛躍的に記録を伸ばすことができるのです。

これまで中学、高校、大学と陸上競技を続けてくる中で、本当に色んな選手を見てきましたが、伸びる選手と伸びない選手において一番差がつくのは、「目標設定と達成までの道のりをどこまで具体的にイメージできていて実行できたか」です。特に、高校生、大学生レベルでは、これまでの練習で身につけた技術から、改善や新しい技術を取り入れるというのは勇気のいることです。オフシーズンに技術を変えようと練習に励んだものの、一時的に記録が低下することに耐えられず、結局今まで通りのやり方に戻した結果、あまりシーズンに入ってから記録が伸びないという選手をたくさん見てきました。どこまで自分を信じて突き進めるか、シーズン目前まで粘って取り組む勇気があるか、もう一度自分に問いかけてみましょう。

オフシーズンは勇気と希望を持って過ごすことです。